忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「復活の日」 読書感想

復活の日」(文庫版)
著者 小松左京
文庫 452ページ
出版社 角川春樹事務所
発売日 1998年1月1日


<< かるーい話のながれ >>

舞台は1970年代の地球。
イギリスの極秘細菌兵器研究所から持ち出された細菌兵器サンプルが、不運な事故により極寒真冬のアルプス山中で大気中に飛散してしまう。
数か月後、世界中で変異したインフルエンザウイルスが大流行。
致死率はどんどん上がってバタバタと人や動物が倒れていく。
しかし感染者を殺している原因は、インフルエンザと同時に流行していた例の細菌兵器ウィルスだった。

爆発的な増殖力と抹殺能力を巧妙に隠し持つこのウィルスは、数年前に宇宙空間から採取された微生物を元に作りだされた凶悪な細菌兵器だ。
だがそのことを知る者は数少なく、色々な偶然からその情報にたどり着けず、研究開発関係者も次々とぽっくり死んでしまう。

誰も原因を掴めないまま、水中以外の生物は死滅していき、(蛇とか虫は大丈夫みたい)最終的に生き残った人類は南極観測基地にいた一万人だけになってしまう。
残された者達は南極でなんとか生き抜いていこうとしていた矢先、人類が自分達で作り上げた憎悪によって自身を滅ぼす危機に襲われる。
果たして残された人類に復活の日はやって来るのだろうか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

まずはコチラ。
南極昭和基地の無線に届いた、ニューメキシコ山中にいる五歳の少年からの救難無線。
しかしそれを聞いた辰野と住吉は救難無線に応えてはいけないと分かっている故に葛藤するシーンが印象に残った。
もし生き残っている感染者達が無線を聞いたら、南極なら助かると思って押し寄せてくるだろう。
そうなったら人類は完全に絶滅してしまうんだよね。
家族もペットもみんな死んでしまった家でただ一人救助を求める五歳児、だが誰も返事を返してはくれない世界になってしまったことを悟ったその子供は・・・。
おじさんに子供はいないんだけれど、こういうのは心にずしっと来ちゃうんだよ(ノД`)・゜・。
無線を聞いていた辰野と住吉は返事を返そうとする者と、応答してはいけないという者で取っ組み合いの喧嘩になっちゃうんだ。
助けを求める者をただ何もせず放っておくしかないって状況は、辛いよね。

続いてコチラ。
ヘルシンキ大学の文明史担当ユージン・スミルノフ教授」による最後のラジオ放送の場面。
結局何が言いたいのかあんまり良くわからなかったけど、軽くまとめるなら・・・。
人類はここまで知性を持って文明を築いてきたんだから、その知性を持って哲学的精神も発展させて相互理解していく努力をもっとしていくべきだった・・・的なことを言いたかったんじゃないかと。
ホントに細かいこと覚えてないし、言っていることも難しくて理解できないことが多かったんだけど、この教授が最後に語る魂の叫びに作者の激情を感じて打ち震えましたわ(´-ω-`)
(映画「インディペンデンス・デイ」の大統領演説シーンみたいな感じの熱意?が伝わってきた)

最後にコチラ。
このセリフも記憶に残る、というか笑える場面の無い作品だからこーゆー言葉がやけに面白く感じる。
400Pより。
―――セックスが人生の重大事みたいに考えるのは、小説家の迷蒙ですよ―――
決死隊として出発する前夜。
特別に接触を許された女性なんだから、おじさんなら何も考えずにルパンダイブで飛びつきます(笑)
しかしこれは作者の自虐ネタなのかな?
あぁ、でも南極生き残りの男達は女性達のことをずっと「ママ」とか「おふくろ」って呼ぶことになっているから、やっぱり最後は親孝行したかったっていう気持ちのが強かったのかもしれないね。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

MM-88細菌やインフルエンザ・ウィルスの仕組みとかの説明が本当に難しかったわ!
ミクソウィルスである新型インフルエンザ・ウィルスにMM-88が感染、ソレが生きている細胞に入るとMM-88が自殺細胞化する核酸を出して感染者を殺す。
感染者が死亡して細胞が活動を停止するとMM-88は溶解して消える?だっけ?
うーむ、おじさんの頭ではこんくらいが限界です(;^ω^)

続いてコチラ。
最終的に南極にいて生き残った一万人。
その中で女性は15人しかいなかったんだけど、その人数で人類はこれから数をふやしていけるのか?
男女比が逆転していたら簡単に増やせそうだけど、女性が少ないと負担も大きいだろうなぁ。
この状況で思い出すのは映画「博士の異常な愛情」の場面だ。
ハーレム計画を語るストレンジラブ博士の言葉に流されて、甘い妄想の世界に入ってしまうお歴々方。

最後にコチラ。
一応この小説は人類が衰退していく様をじっくり書いてあるお話なんですわ。
だから人類が知恵と勇気と努力で未知のウィルスに打ち勝っていく様を描いたサクセス・ストーリーじゃないからご注意を。
(医学関係者の方が読んだらどんな感想を語るのか、ちょっと気になったり・・・)


<< 読み終えてどうだった? >>

なんだか海外の翻訳SF小説を読んでるみたいな気分だったかなワールド・ウォーZの影響かも)
パニック災害物の映画と違って世界中の一人一人の視点で生物が絶滅していく様を描かれているから、とんでもないことが地球規模で起こっているっていう緊迫感が読んでいてすごく伝わって来たよ。


作中で語られていたところで、新聞やメディアで目にする何百、何千、何万人の死者報道を流し見ていて、ふと周りを見てみると病人だらけに。
自分もいつからか軽い咳が出ている。
そして気がつくと自分も死者数字の中にいるんだってことに気づかされる文章がゾクっときた。
細菌兵器って怖いよぉ。目に見えないし気付けないから余計怖い(; ・`д・´)
ちょうどインフルの流行る季節に読んでいたから物語に浸りやすかったのかもね(笑)

おじさんは昔から宿題を最終日ギリギリまでやらなかったけど、んでけっきょく出来なかったけど、人類も絶滅の縁に立たされないと協力し合うことが出来ないのかねぇ。
でも何度も幾つも大きな戦争や病気や災害があったのに未だに理想社会になれないのは悲しいことだよ(ノД`)・゜・。
この小説内の人類には明るい未来を創る理性があると祈りたいわ。
読了感は長くて難しい言葉連発の物語をよくぞ最後まで読み切ったぞ!っていう、やり遂げた感で一杯だ。(夏休みの宿題も頑張って終わらせていたら、こんなに気持ち良い気分になれたのかなぁ)

ちなみにふと考えたんだけど、「復活の日」ってのはひょっとして人類自身がもう一度「最初の状態」からやり直す意味だったのかな?
以前の世界よりも、もう少しマシな世界を作っていく始まりの日ってことだったのかもね。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

20Pより。
―――諦めの熱い皮膚の下に、もはや燠ほどのぬくみも感ぜられぬようになったと思われた、あの懊悩だった。―――
「おうのう」
悩み悶えるっていう意味らしい。

294Pより。
―――治安などと――つまり従容として死ねという意味ですか?―――
「しょうよう」
ゆったり落ち着いている、または急いでいても慌てたりしないことかと。

326Pより。
―――私が学者として、知識人として、根源的に怯懦であったことに対する罰にほかなりません・・・―――
「きょうだ」
臆病で気の弱いこと、らしい。

116Pより。
―――中国は朝鮮事変の時、アメリカ空軍によって細菌兵器の攻撃をうけた。―――
英国や旧ソ連などの科学者からなる国際科学委員会は1952年に、朝鮮戦争アメリカは日本軍の731部隊のデータをもとに細菌戦を実施したって言っているらしい。
歴史家のキャサリン・ウエザースビーはこれを北朝鮮ソ連、中国が捏造したプロパガンダだって言ったみたいだけど、中嶋啓明(ジャーナリスト)は実際に旧日本軍のデータに基づく細菌戦が行われたと主張しているようで。
うーむ、あくまでも個人的な感想だけど・・・・・どさくさに紛れてやっていたに一票。

127Pより。
―――1957年、アメリカ東部のノースカロライナ州上空で、訓練飛行中のB47爆撃機から、あやまって、水爆が投下されてしまったことがあった。―――
パロマレス米軍機墜落事故。
1961年ゴールズボロ空軍機事故。
1958年3月11日、サウスカロライナ州上空を飛行中のB-47から原爆が落下した事故。
あわや大惨事っていう爆弾落下事故がけっこう頻繁に起こってますやん。
こんなの怖すぎるわ(゚Д゚;)
やっぱりどんだけ安全設計しても人間が扱う限り事故は起きてしまうんやねぇ。

135Pより。
―――CIAの中東支部は、つんぼ桟敷だった。―――
江戸時代の劇場で、正面2階桟敷の最後方の席。
舞台から遠くて役者のせりふがよく通らないらしい。
あとは関係者でありながら情報や事情などを知らされていない状態ってことかと。

405Pより。
―――コバルト60を線源にしたガンマ線照射はたびたびやってきたが、大したものはえられなかった。―――
コバルト60!これはまさか映画「博士の異常な愛情」で紹介されていた元素かな?
って思ったけど、映画に出てきた元素は「コバルト・ソリウムG」という半減期93年の放射性元素でした(;^ω^)


<< 挿絵で見たい場面や物など >>

263Pに描かれていた「アウシュビッツ作戦」または「バナナ作戦」が凄い光景だ。
ガスマスクを付けた自衛隊員達がそこら中に転がっている死体をブルドーザーで集めて山にしたら、ガソリンなどをかけて火炎放射器で燃やし尽くす風景。
もはや丁重に扱うだけの人員も行政もままならなくたった末期状態の日本の日常。
あちこちから新興宗教に縋りつく人々が唱える読経が聞こえる中、死体がどんどん掻き集められては次々に焼かれていく梅雨の東京。