忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「椿山課長の七日間」読書感想

椿山課長の七日間」(文庫版)
著者 浅田次郎
文庫 416ページ
出版社 朝日新聞社
発売日 2005年9月15日


<< かるーい話のながれ >>

大手デパートの婦人服売り場で課長をやっている見た目の冴えない中年オヤジの椿山さん。
本日から気合を入れまくったセール開始っていう時に、脳の血管が破裂してぽっくり死んでしまう。

そしてあの世とこの世の中間地点にて天国逝きの講習を受けることになったのだが、何故か椿山さんは邪淫の罪で講習を受けることに。
こんな見た目だから女遊びなんて身に覚えがないと主張する椿山さんは、「改心スイッチ」一押しで天国に行けるチャンスを拒んで現世での再審申請を要求する。
意外なことにすんなり認められて、気が付くと「椿」という39歳くらいの艶やかな美女の肉体を経て自分が死んだ後の現世に舞い戻っていた。
果たして椿山さんの邪淫の罪は払拭されるのだろうか!?

現世に戻った人は他に二人いて、標的と勘違いされて殺し屋に射殺された古き良き任侠ヤクザの武田。
突然の交通事故で死んでしまった頭脳聡明な根岸という少年。
この三人の視点で入れ替わりながら三つのストーリーが進んで行く。

文字数も多めで400ページもあるのにあっという間に読み終えてしまった。
綴られている文章が凄く軽いというか読みやすいからスルスル読めちゃうんだと思う。
(稚拙とかじゃなくて巧い文章って感じか?)


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

とにかく一番グッと来たのはこのセリフ。

~本文より抜粋~
―――「泣くなよ、ツバキ。あなたがどこの誰かは知らないけど、人間は「ありがとう」を忘れたら生きる資格がないんだよ。きょうはありがとう。私の愚痴を聞いてくれて。」―――

生前に結婚前までセックスフレンドな関係だった宝石売り場の知子と椿(椿山)が、二人で鍋を食べて酒を飲みながら知子の椿山に対する本心を聞かされた場面。
ひさーしぶりにこんなに心に染みる言葉を読んだよ。
椿山じゃなくたってこんばシチュエーションでこんな気持ちを聞かされたら、誰でも悔い改めて涙を流さずにはいられないべさ(ノД`)・゜・。

あと面白かったキャラクターがいて、それは港家一家組長の鉄蔵という人物。
何か心配事が起こるとすぐに気絶するヤクザで、気絶しそうになると手下がさりげなく起こしたり(笑)
―――いったいに気が強いのか弱いのかこういう者がヤクザには多い―――
っていう説明もまた笑わせてくれる。

あと書くのはめんどくさいので省くけど、最近は必要以上に子供を子ども扱いし過ぎているって部分が共感した。自分の子供をペットか何かと勘違いしているっていう部分も確かにそうかもなぁって思ったわ。
(実際に自分の子供が出来たら同じように甘やかし過ぎるような気もするけどね・・・)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

まあ朝日文庫だから仕方ないんだけど、作中での露骨な朝日新聞社推しが気になったかな。
でもこれくらいはご愛敬の範囲内か。

あと椿山さんの息子の陽介少年なんだけど、自分の家の家族関係と日米関係を掛けて考えている小学生ってちょっと・・・・・ねぇ(^^;)(そのへんも面白いからいいんだけどさぁ)


<< 読み終えてどうだった? >>

考えてみれば浅田次郎作品は初めて読んだけど予想外に面白かった!

確かに評判通りの笑って泣ける(悲しいけど苦痛な悲しみではない)エンタメ小説だったよ。
この小説の文章というか言葉なんだけど、なんだか平成狸合戦ぽんぽこの語りに近い感じがした。ちょっと古臭いような・・・だけどすごくしっくりきて理解しやすい文章っていうか。
(「四畳半神話」などの作者である森見登美彦の言い回しに近い・・・かも)

ま~それにしても、年のせいかもしれないけど何度も泣きそうになる部分があったね。
こういう感動ゴリ押しのは好きじゃないんだけど、この小説はすでに死んでしまった人の視点で書いているから涙が出そうになるけど悲しいってことではなくて・・・・・なんていうか~~~、優しさからくる涙みたいな感じ?
だから思わず泣きそうな場面でも辛くならずに、むしろ心が洗われるような気分で読めたよ。

かなり熱中して最後まで読んじゃったこの小説、読了後の感想は・・・。
こんなに読者の気持ちをコロコロ楽しませてくれる小説は初めてかもしれない。染みる言葉も沢山あったし、何よりも森羅万象誰も避けられない死を待つ人間としては死後の世界を暖かな気持ちで考えることが出来るようになる小説だった。
読了感はとても爽やかで満腹でしたわぁ(*´▽`*)
(しかしあの2人があんなことになってしまったのは、やっぱり辛いよねぇ)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

作中で書かれていたけど、デパートって閉店後は夏でも節約の為にエアコン切って作業してるの?
ひえぇぇ、そりゃ不健康な中年には過酷な環境だろうて(;´д`)

この小説、やっぱり映画やドラマにもなっているのか。作りやすいし受けるの間違い無しだと思うからねぇ。(何故か韓国ドラマにもなっていりゅ・・・)

45Pより。
―――人倫に悖る―――
「じんりんにもとる」
人としての在り方、人でなし、人としての道を外れるなどの意味かと。

79Pより。
―――無聊を慰めあうセックス・フレンド―――
「ぶりょう」
退屈とか楽しくない、もやもやしている様子とかって意味らしい。

180Pより。
―――潔癖と怯懦とが同義に完結するという―――
「きょうだ」
臆病とか気が弱い、勇気がないこととかかな。

259Pより。
―――献杯―――
「けんぱい」
相手に対して敬意を表すかんぱいってことかな?
無くなった人を悼んで杯を捧げるっていう意味でもあるとか。


<< 挿絵で見たい場面や物など >>

今回は二つの場面が印象に残っているのですわ。
最初は367Pの場面。
雨が降る中、かつての子分を抱きしめながら、なんちゃってヒットマン五郎に拳銃を向ける武田。
(肉体はナイスミドルな弁護士で)

もう一つは174Pの場面。
椿山の自宅にて。
お互いに向かい合う椿(椿山)と元妻の由紀、そこに現れた椿山のパジャマ姿の寝起き嶋田(イケメンで元椿山の頼れる部下)、途端に緊迫したその場の空気を読んで、一人素早く逃げる息子の陽介。