忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

夏の口紅 読書感想

タイトル 「夏の口紅」(文庫版)
著者 樋口有介
文庫 280ページ
出版社 角川書店
発売日 1999年9月1日

 


<<この作者の作品で既に読んだもの>>


・「風の日にララバイ」
・「遠い国からきた少年」
・「少女の時間」
・「風景を見る犬」
・「魔女」


<< ここ最近の思うこと >>

女性と映画を見に行く時ってどんな作品を選べばよいのか?
おじさんの記憶を探ってみると『ターミネーター4』、『スカイクロラ』、柳広司の『ジョーカーゲーム』、『カイジ2 人生奪回ゲーム』ってなもんを観に行った覚えがある。
(ちなみにその時の女性らとは何の進展もなく・・・)
初デートで映画は止めておけと知り合いから聞いたけど、なるほど確かにそれほど盛り上がらない。
トーク自身アリな陽キャだったら問題ないだろうけど、陰キャ気質の男性は場を盛り上げられずにデートが終了してしまう。ならシャレオツな作品だったらいい雰囲気になるのかな?
いやそれ以前にある程度の仲になってから映画デートしろってことなんだろうけど、じゃあある程度とはどれくらいってなるわけで、まずある程度仲良くなることがすでにハードルで・・・(´-ω-`)

はい、つーわけで今回は樋口有介作品を読んでみよう。
2022年の11月で夏は過ぎてしまったけど読書の秋だから問題ないっしょ。
ではでは夏休み、美女、青春の黄金比で構成された樋口ワールドへいざ飛び込むぞい(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

母親と二人暮らしをしている大学生の笹生礼司。
デザイナーの香織という年上の彼女もいて、始まったばかりの夏休みは穏やかに過ぎていく。
かと思っていたら、十五年以上前にいなくなった父親が死亡したとの連絡を受ける。
葬式を上げた高森家を訪ね二つの遺品を受け取った礼司は、もう一つを姉の方に渡して欲しいと頼まれてしまうのだが、礼司は今まで実姉の存在など一切見たことも聞いたこともない。
その日から名前すら知らない姉探しが始まった。

わたしが誰とフィジーへ行くか、やばい気配、あんたも知らないのかい、ばかでかい蝶、今夜のお祝いは盛大に、日本ミノムシ学会、蛸の生殖行動、わたしの運命ね、迷い蝶、夏の色だし、デートの礼儀、今夜は帰らないで、仏滅なのよねえ、男を見る目、資質、ルール違反、頑張ってちょうだいね、だいっ嫌い、宿命的な相性・・・。

適度な距離感でお付き合いしている美脚の美女香織と、高森家で知り合った無口過ぎる美少女の季里子。二人の存在にゆらゆら迷いながら礼司はほとんど覚えていない父親の痕跡を訪ねて、見たこともない姉に珍妙な遺品を渡す義務を全うしようとする。
大学三年生の笹生礼司にとって、初体験の夏休みが始まろうとしていた・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///無口系ヒロイン高森季里子の魅力///
本作ダブルヒロイン?の一人である高森季里子。
不登校の女子高生でちょっと病気?のある無口な美少女の魅力にやられちゃった。
個人的にグッと来た場面を紹介いたす。

初めて高森家を訪れた礼司は季里子に案内されて、父親の周郎が使っていた部屋に通される。
無口な美少女だが、意外にも反応はしっかりしてくれるし意思の疎通も文字で答えてくれる。
そして年齢を訪ねたときついに・・・。
44Pより。
―――鉛筆を握った季里子の細い指がこまかく震えて、もう少しで便箋に文字があらわれるかと思った瞬間、意外にも飛び出したのは文字ではなく、ちょっとかすれた、小さい拗ねたような声だった。錯覚でなければ季里子は自分の口で「十八」と言ったらしかった。―――
ハイでましたよ季里子カワイイ(*´ω`*)
何考えてるのか全然わかんない女の子が急に頑張って喋ってくれた瞬間。
この時点でもうおじさんはハートブレイクしちゃいましたわ。
でもなんで初めて会った礼司に対して急に喋ったりしたのかって?それは後々に明かされるから読んでのお楽しみよ。

続いてコチラ。
季里子と原宿デートをする約束をした礼司は、待ち合わせ場所に少し遅れてやって来た。ガードレールに尻をのせて一人でいる季里子は輝きを放っており、その気持ちを悟られぬようスラっと声をかける。
120Pより。
―――「デートの相手が遅れたときは、もう少し怒った顔をしてるもんだ」
季里子がガードレールから飛びおり、白い前歯を隠すように、口をへの字に結ぶ。―――
デート相手を見つけただけで嬉し顔しちゃうって、季里子ちゃんは犬かいなイッヌかいな(*´Д`)
きっと弾けるようなニコニコスマイルをブチかましてくれたんだろうなぁ~おじさんも見てみたかったなぁ~。その様子を描写するんじゃなくて、礼司のセリフで表現するテクニックも洒落てるね。

///強烈な個性の女達///
朝帰りをした礼司は、自宅で何らかのお祝い的な準備をしている母親を発見する。
ドレスのようなワンピース姿でテーブルに花を飾りワインを並べ、「新世界」を流しながらちょっとしたお祝いだと母親は説明する。
21Pより。
―――「あかかぶのケーキを焼いてみたの」
「なんのケーキ?」
「赤カブ、知ってるでしょう?よくお漬物なんかでいただくじゃない」
「そんなケーキ、なんで焼いたのさ」―――
もう見た目のインパクトが強すぎる礼司の母親はその性格もかなりクセが強い。
ケーキ研究家で赤カブを使って作ろうってのがまず凡人には思いつかないし、それから始まる過去の作品や厄介事を全部礼司に押し付けていくスタイルも非凡人の特権(笑)
ひとつ気になるのは、なぜ元夫をそれほどまでに恨んでいたのか憎んでいたのか、女心はわからんねぇ。

もう一人の個性強すぎおばさんがコチラ。
父親が最後に暮らしていた高森家にやってきた礼司。
二階から現れた少女に案内されて奥の部屋に入ると、見事に太ったおばさんが鎮座していた。
34Pより。
―――「初めまして、この度は父が、お世話になりました」
おばさんが、うーんと唸り、青や赤のおはじきみたいな指輪が並んだ指で、浴衣の襟をぱたぱたとふり扇いだ。首には犬の首輪かと思うほど太いネックレスが、異様な光を放っている。―――
またまたとんどもなく容姿のインパクトが強い女性がでてきたわ。
思わず思い浮かべてしまったのは「千と千尋の神隠し」に登場した湯婆婆だね。
客人が来るから宝石類を身につけていたのか、普段からそれらを付けているのか、とりあえず見た目通りの強烈な性格なのかどうかは読んでみてのお楽しみ。
読了後に読んだ米澤穂信の解説に納得だわさ。

そして思わずドキワクしたのが181Pでこの女性たちがいきなり対面する場面。
二大強キャラが出会うとき一体何が起こるのか、好奇心が膨らむし184Pのガチ動揺する礼司母も面白いし、ほどよい笑いを提供してくれる作りが素晴らしいわ。

///相変わらず羨ましい主人公の笹生礼司///
樋口作品の様式美、羨ましすぎる主人公設定をご紹介。
ただモテるからモテている訳じゃあない、その細かなテクニックを覚えておこう。

いつものように香織の部屋でまったりしている礼司は、少し前に二人で観た映画の感想を聞かれる。
映画に登場した二人の女性のうち、どちらが良いと思ったのか?と。
17Pより。
―――「礼司くんは、結局どっちがよかったの」
「画家と、写真家?」
香織がうなずき、その顔を見ながら、頭の中だけでぼくは深呼吸をする。―――
このあと礼司が返す言葉に脱帽したわ。なるほどこれは巧いごまかし方法だね。
こんな答えがスルっと出てくるような人間におじさんもなりたかとです(´Д`)
あと一緒に観た映画に対してあれやこれや感想を言い合うシチュも羨ましい。

続いてコチラ。
二人で原宿を散策し、季里子が下着を選んでいる間にプレゼント用の口紅を購入した礼司。
デイパックを背負ったまま荷物をしまおうとする季里子にたいして、礼司はアドバイスをするのだが彼女は頑として聞き入れない。
130Pより。
―――「わたし、背負ったまま物をしまうの、得意なんだもの」
面倒臭くなって、ぼくは季里子の頭に拳骨をくれ、怯んだ隙に、パンティーの紙袋と口紅の包みをデイパックへ押し込んでやった。―――
デートから帰って荷物を取り出していたら見慣れないモノが出てきて、中身は洒落た色の口紅だった時はアンタもう・・・男のおじさんが想像しても惚れてまいそうになるやり口じゃねえか!
こーゆーことがスラっと出来ちゃうなんて、笹生礼司・・・まったくスマートなヤツだぜ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///共通点が多い気がする///
樋口作品は前回『魔女』を読んだんだけど『夏の口紅』と似たような展開がちらほらとあった。みかんと季里子の性格やキャラクターとか、墓地でお話しするシチュエーションとか、251Pの展開とか。
偶然にも二つの作品を連続して読んでしまったからより一層強く共通点が気になっちゃったのかも。
まあ別に悪いって訳じゃないし、まるっきり同じでもないし、楽しめたから無問題なんだけどね。

///それほど重要アイテムじゃない?///
読み終えて思ったんだけど、タイトルにもなっている『夏の口紅』がそれほど重要アイテムって訳でもなかったように感じた。まあ作品タイトルが小説の内容とあまり関連性がないってのは珍しいことじゃないと個人的に思ってるしいいんだけどさ。
と言いつつネットで口紅をプレゼントする意味を調べてみたら、なんとなんとまさかそんな意味合いが!
ごめんなさいね、「夏の口紅」は充分タイトルに相応しい言葉でしたわわわ(^^;)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
「柚木草平シリーズ」と同じく最初から最後まで笹生礼司の視点から第一人称語りで進んでいく作り。安定した読み心地でちょっとしたミステリー要素?が含まれている本作にはぴったりのスタイルだね。

今回も夏の情景や東京の街並みの描写がしっかり語られている。昔は細かい風景描写とか苦手で読んでいても退屈に感じたけど、今では想像しながら読むゆとりが持てている気がする。
樋口作品の新作がもう世に出ないと知ってしまったから、少しでも味わって読んでおこうって思考に切り替わったのかもね。

///話のオチはどうだった?///
殺人事件があるわけでもない、推理とかがあるわけでもない。だけど小さな謎だったり想定外の展開などはしっかり組み込まれていて、終盤には諸々の風呂敷もしっかり語られて畳まれている。
詳しくは言えないけど、色々なことが判明する場面がまたおセンチな気分にさせられるのよ。
さすが男性向けロマンス小説作家だね。(←個人的に勝手に思っているだけなんです)

あと小説全般に言えることだけど、最後の締め言葉はその本の後味を決める一手だからめちゃめちゃ重要だよね。『夏の口紅』はそこんところも良かった~。
若者の未来と胸躍る夏休みが一気に広がるイメージが湧いてくる、印象深い締めだったよ。
読み終わって思わず聴きたくなったのがゆずの「夏色」とか織田哲郎「いつまでも変わらぬ愛を」だね。
つーかこれらの曲は大体どの夏系作品にも合うか(笑)

///まとめとして///
ちょっと切ないけど爽やかに終わるこの物語。
でも柚木草平シリーズに慣れ親しんだおじさんにはもう少し苦味成分が欲しくなるかもって感じ。
よって樋口作品鑑定人(自称)として「夏の口紅」は・・・樋口小説初心者にお勧めしたい一冊かと!
もちろん既にに嵌ってしまった人にもオススメよ、若い頃のトキメキを一瞬でも思い出せるからね。
はぁ~、おじさんんもこんな夏休みを経験してみたかったわ(ノД`)・゜・。

上でも書いたけど、「魔女」と「夏の口紅」はなんだか似たお話で、詳しく思い出せないけど似たような小説がいくつかあった気がする。だから普通ならまた同じ展開かよって飽きてくるはず。
だけどおじさんの場合は1年くらい経つとまた似たような話が読みたくなってきちゃうのね。
中毒患者みたいにあの独特な文体を欲してくるのだ。
樋口有介にしか出せない雰囲気、世界感、後味がある。だから癖のある文章は強い。
解説では米澤穂信が「夏の口紅」の魅力について見事に語られておりますです。
(気のせいかもだけど、ホータローもどこか樋口作品の主人公に似ている?いや気のせいかな)
ではそろそろ、今回も作中の一品から。
ゴロゴロお肉のビーフシチューとフランスパンが欲しくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

8Pより。
―――ユニット式のバスタブは足がのばせるぐらい広くできていて、洗面台には薬草の石鹸や水歯磨やクレンジングクリームが散らばっている。―――
洗口液はすすぐだけで歯垢・口臭といった口内トラブルの原因となる食べカスやミクロの汚れ、ネバネバを洗い流してくれる。
水歯磨きはお口に含んですすいだ後にブラッシングして使用するみたい。
買う時は間違えないように気を付けよう。

13Pより。
―――香織が言っているのはぼくらが二時間ほど前に観た『存在の耐えられない軽さ』という映画のことで、そういえば香織はビデオを観ながら、主人公のトマシュに皮肉っぽい鼻の鳴らし方をしていた。―――
『存在の耐えられない軽さ』は1988年製作のアメリカ映画。 冷戦下のチェコスロバキアプラハの春を題材にしたミラン・クンデラの同名小説の映画化したもの。上映時間は171分とちょい長いようで。
洒落た映画をチョイスしてくるね~。

62Pより。
―――お袋はくどいほどカラオケを披露してくれたが、歌ったのは最初から最後まで『ラ・ノビア』だった。―――
「ラ・ノビア」はチリの音楽家ホアキン・プリエートが1958年に作詞・作曲した歌曲。本国だけではなくイタリアの歌手トニー・ダララや、日本の歌手ペギー葉山らがカバーし、世界中でヒットしたみたい。
歌詞の内容は、本意でない結婚を前にした女性の悲しみを歌っているとのこと。
うむむ、聞いたことない歌だわね。

187Pより。
―――「ねえ礼司くん、こちらの高森様、本郷に二つも家作を御持ちなんですって」―――
「かさく」とは作ってある家。特に、貸家にする目的で作った家。

189Pより。
―――「あたしが飲むのは実母散だけさ」―――
「じつぼさん」は数種類の生薬を配合した漢方薬
急な汗、ホットフラッシュ、イライラ・不安感、倦怠感・だるさ、肩こりなどのつらい更年期の症状にすぐれた効果を発揮するとのこと。命の母みたいなもんかな?

203Pより。
―――「あたしは巣鴨へ寄って、久しぶりにとげ抜き地蔵の塩団子でも食べて帰るさ。―――
巣鴨とげぬき地蔵通り名物の元祖塩大福みずの。
人気の秘密は小豆や餅の風味を生かした甘味と塩味の黄金比ってことらしい。
お餅と餡子の組み合わせは最強だわ。寒くなってきた今日この頃、熱いお茶と塩大福でほっこりしたいわ。
ところで塩大福ってやっぱりしょっぱいのかな?食べたことないのねよ。

216Pより。
―――「あなたの顔は絵に興味を持つ顔じゃないものね。増井さんもそうだったけど、あなた、プラグマチストでしょう」―――
「プラグマチスト」とは、プラグマティズムを信奉する人。 実用主義者。
実際に役立つことばかりを重視する傾向ってことなのかな?それなら絵に興味がないのも納得だわ。

237Pより。
―――礼司くんがその女の子に琺瑯のパーコレータをプレゼントしてあげて、それからあなたたちは映画を見にいった。あれは『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』だった。―――
マイライフ・アズ・ア・ドッグ』は1985年のスウェーデン映画。
スプートニク・ショックに揺れ、ワールドカップに熱狂する1950年代のスウェーデンを舞台に、幸薄い少年の成長をユーモラスに描いている作品のようで。
学生デートでこの映画をチョイスするとは、中々に渋いセンスだ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
107Pのぽーんと帽子を放る場面もイイ感じだったけど、読んでいて思わずひやりとしてしまうニアミス場面をチョイス。修羅場の危険もあるけど一度くらいこんな経験もしてみたい!
年下キリコと年上香織、みなさんはどちらが好みだろうか?
個人的にはやっぱり香織派かなぁ~、しっぽり大人の魅力が好きですたい。
どちらにしても、今のおじさんにとっては年下になっちゃうけど。


149Pより。
―――そのとき、ぼくらの横を通った女の人の腰がテーブルに当たり、ちょっとぼくは、顔を上げてみる。女の人はそのまま化粧室へ歩いて行ったが、ぼくの背中には寒気のようなものが這いあがる。どうでもよくて、どうでもよくはないが、いったいいつから香織は、この店にいたのだ。―――

 

 

黒い仏 読書感想

タイトル 「黒い仏」(文庫版)
著者 殊能将之
文庫 317ページ
出版社 講談社
発売日 2004年1月1日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

ブログ始める前に「ハサミ男」も読んだ

・「美濃牛」


<< ここ最近の思うこと >>

既に書いたことかもしれないけど、スポーツ観戦をまったく嗜まないおじさん。
気まぐれに応援していたチームが負けた時はストレスが溜まるし、勝ったとしても喜ぶというより無事勝てたという安心感しか得られない。(今のところ)
勝敗がわからないから良い、その過程にある興奮が堪らない、勝った時の高揚感・・・これってギャンブルそのものなんじゃないかと考えてみたり。
ギャンブルもスポーツ観戦もしないおじさんにとっては理解不能な世界だなぁ~ってちょい待ち!
読書も同じじゃね?読んでみるまで面白いかわからないし、カネでは買えない時間を賭けているし。
そう考えるならば、読書本ギャンブルにおいておじさんは基本安牌よ。独自の感性で勝率は高いし、なによりトータルでは勝っている、はずだと思う。

そんなわけで、2022年の10月とは思えないほど夏日になった16日に読み始めた今回の一冊。
感想を書いている10月末になると、気温はがらりと変わって真冬のように寒い寒い。
まるでこの小説の始まりみたいな季節で妙な偶然を感じるような。
前回の『美濃牛』が気に入ったので続編を購入してみたけど、今度はどんな不思議と謎が名探偵を待ち受けているのか早くも期待に胸がドキドキしてくる。
ではでは、秘宝と坊さんと身元不明死体が絡んだ日本シリーズに沸き立つ福岡にいざ向かわん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

亀恩洞の事件で名を上げた石動戯作の下に一件の依頼が入った。
ベンチャー企業の社長から受けた依頼は、九世紀に唐から日本へ持ち込まれた秘宝を探し出して欲しいという内容で、福岡にある安蘭寺のどこかに隠されているらしいとのこと。
魅力的な報酬額に釣られて依頼を引き受けた石動は、助手のアントニオと供に福岡へ向かう。
一方、同じ頃に福岡のアパートにて一人の遺体が発見された。
生活感もなく指紋も一切見つからない部屋で絞殺されていた遺体は、身元を証明するものが何もなく警察は手がかりのないまま捜査を開始するのだが・・・。

謎めいた経典、人影らしきもの、宝探し、被害者の顔、真の姿、黒い仏像、幸せになれたのよ、くろみさま、化けもん寺、山法師、地獄に住む虫、朱天下捕猛虎、イエロー・サイン、正義の定義、祝杯、ふざけた野郎だ、時間が停まった、本物の名探偵、母親の顔、荒唐無稽な話・・・。

石動の助手であるアントニオは、依頼主の社長に会った時から何かを感じ取っており、今回の依頼は石動だけで安蘭寺へ向かわせるのは危ういと判断し、珍しく仕事に同行することにした。
アントニオが感じ取ったモノ、それは名探偵や警察ではどうにもならない類の危険だった・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///名探偵の助手アントニオの魅力に迫る///
前作『美濃牛』にて、最後に登場した助手のアントニオ。
今回は彼の知られざる過去や人間性がしっかりと語られていた。
まずはコチラ。HWRテクノロジー社長の大生部に依頼内容を聞きに行った石動とアントニオ。「アントニオ」という名前と日本人的な見た目に戸惑う大生部は、その名前の由来について説明を受ける。
27Pより。
―――「本名は徐・彬と申します。へんてこりんな日本語読みすると、<ジョ・ビン>です。だから、大将はアタシのことをアントニオって呼ぶんですよ」―――
アントニオという名前から南米とか欧米系を予測していたのに、まさかの中国人だったとは(笑)
しかもその名前の由来も石動らしくて納得。
いつも飄々としていて掴みどころのない性格で、石動に負けないくらい音楽の知識も深く、それに何かしら察する能力も?
初っ端から好奇心が高まるキャラクターだね。

続いてコチラ。
安蘭寺の書庫にて秘宝の在り処を調べている石動に食事を届けに来た瑠美子。
石動の持つ書を覗き込む彼女と、美女の接近にどぎまぎする名探偵。
そこへアントニオが助け舟?を出した。
110Pより。
―――石動が困り顔でにじり下がったとき、アントニオが突然、口をはさんだ。
「おなかの子供はいま何カ月なんですか」―――
絶妙のタイミングで予想外の言葉を放つアントニオ、どうして分かったのか謎だけスラっと石動を助ける様がカッコイイ。
警戒心を抱くような瑠美子の反応も気になるし、何か訳知りな雰囲気のアントニオも気になるし~!
面白さがグングン高まってしまうわい。
何も知らない純粋な石動が愛らしく感じるよ(笑)

///映像が目に浮かぶような文章///
絞殺された身元不明遺体事件の捜査で、初期段階から壁にぶつかってしまっている福岡県警。
中村警部補は冷めかけたコーヒーを飲み窓の外に目をやる。
そこには巨大な日蓮上人が鎮座していた。
62Pより。
―――いまは、遠く爆音を響かせながら、福岡空港発の航空機が、日蓮上人の頭上、よく晴れた青空を斜めに横切っている。なんともはや、シュールレアリスティックな光景だった。―――
行き詰っている捜査に悩むベテラン刑事が、ふと窓の外を見ると巨大な大仏がコチラをどっしりと見据えていて、その頭上を航空機が爆音で過ぎ去っていく・・・完全にパトレイバーの刑事パート部分じゃないすかね?(ほんとに福岡警察署の窓から大仏様が見えるのか気になるけど確認の仕様がないので残念)
読んでいて思わずアニメーションが脳内に流れてくる。こーゆー味の染みた描写は大好きなのよ。
好きな文章繋がりで186Pの「リーズナブル」を使った皮肉表現にもニヤリとさせられる。
殊能将之のセンス、お気に入りだなぁ~(*´Д`)

///あれれ、物語がバグってるかも///
石動らと同じ宿に宿泊客として来た僧の夢求。
夕食を食べながら各々の目的を打ち明け、お互いに安蘭寺にまつわる品物を探しているのだと判明した。
そしてページは次へ移り・・・。
157Pより。
―――わたくしの役目は、本を閉じるにも、劇場から去るにも、もはや遅すぎると、皆様にお伝えすることです。―――
訳の分からないことが突然起こると人間誰でもぽかんとしてしまう。この部分を読み始めたおじさんも例外ではない。何がおこったの?何が始まるの?ってドキドキと不安と少しの恐怖が胸中に沸き立つのを感じつつ、落ち着いてゆっくり読み進めたわ。
この演出はほんと素晴らしいよ・・・・・からの~・・・なんだこれは!?
その先に待ち受けていたのは更なる混沌だった。
名探偵のミステリー小説なんでしょ、急にジャンル変わってませんかΣ(・□・;)
ヤバイよこの小説、もうおじさんは手遅れになり『黒い仏』の虜になり果てましたわわわ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///題名にもなっている仏像の謎///
住職の星慧に案内されて安蘭寺の本堂へやって来た石動とアントニオ。
須弥壇に並ぶ四体の仏像の一つ、中央の本尊は激しく損傷しており顔面は意図的に削り取られていた。
85Pより。
―――「おそらく、会昌の廃仏のときに、不敬の輩がやったのでしょう。仏難のおり、御仏のお顔が削り落されることは、よくあったんですよ。西城の摩崖仏にも、顔のないものがたくさんあります。なんともはや、畏れ多いことだ」―――
どうして仏像の顔が削り取られていたのか?
間違いなく物語の中心になるであろうキーアイテムなのだから、そんなことになった経緯とか理由があると個人的には思っていたんだけど、語られなかったってことは特に意味はないってことなのかな。
または星慧にもどうして削り取られたのかわからなかったということか。
う~ん気になるぅ(´Д`)

///その時、何がおこなわれていたのか///
ネタバレになるので詳しくは言えないけど、ある人物が時間つぶしの為にイエロー・サインへ出向き、楽しい時間を過ごしながら一夜を明かし帰路へとついた。
284Pより。
―――ハンカチを受けとり、頬についた血糊をぬぐった。若者は赤く染まったハンカチを捧げ持ったあと、ポケットにしまった。―――
ただの風俗店へ行ってなぜ血糊が付くのか?
この人物は一体どんなプレイをしてきたというのか、想像するにガクブルしてきそう。
まあ本編にはまったくと言っていいほど関係ない疑問なんだけど、こんな危険を匂わせる雰囲気を出されたら気になっちゃうじゃん。
(ひょっとして作中のどこかで語られていたりする?おじさんが忘れているだけかも?)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
石動&アントニオの宝探し組と、殺人事件を追う刑事二人組を中心とした三人称視点で語られる作りで、その合間に他の登場人物達の三人称視点が散りばめられている。
まあ前作の『美濃牛』と基本同じだわね。

相変わらずするりと入ってくる文章が読んでいてい心地良く、思わずトロンと転寝しそうな気分になってしまうのはおじさんだけかな(;^ω^)
(つまんないとか退屈って訳じゃないんだよ!自分が文章の中に溶けていくような感じ・・・いや眠気じゃなくてね)
前作同様に音楽やスポーツや漢文やら、様々な小話がみっちり詰まっている内容。
こーゆー遊び心あるお話は個人的に好みだから受け入れちゃうけど、余計な話は省いて欲しいってタイプの読者にはオススメし難いかなぁ。

///話のオチはどうだった?///
身元不明死体の殺人事件については犯人もトリックも結末もきっちり説明されているからご安心を。
その説明に納得できるかどうかは人それぞれかと。
主人公である石動に関しても、『美濃牛』の時より名探偵として活躍していたと思う。
あんな推理を披露しちゃうんだから「一種の天才」と評されるのも納得かな(笑)

そんでもって、殺人事件よりももっとトンデモナイ事柄についてのオチは語られておらず。
むしろオチというか、終わりの始まりが静かに幕を開けて終劇ってやつだね。
なんなのこの『黒い仏』ってお話は!?普通にミステリー読みたくて購入した人はおそらく憤慨するんじゃないか心配だよ(; ・`д・´)
ちなみにおじさんはこーゆー系は大好きだから無問題よ。
一流のアカデミー賞受賞監督が作ったB級オカルト映画って感じでワクワクするし。

///まとめとして///
前回読んだ『ただ、それだけでよかったんです』の感想で、電撃ラノベでこんな話だったとは予想外って書いたけど、今回は名探偵が主人公のガチガチミステリー作品だと思ったら、こんな内容で大予想外。
これだから、こーゆーことがあるから、小説は読んでみないとわからないよねぇ(*´ω`*)
物語が面白いかどうか、合う合わないかは各々読者の運しだい。まさしくこれギャンブルじゃね?
もちろん今回もおじさんは「勝ち」ですわ。だって数百円と数時間でこんなにドキワク楽しめたし。

いやいや~これはもう完全に嵌ってしまいましたな石動戯作シリーズ。
もうすぐにでも続編の発注を入れておかないと。
好きになった作家には長生きしてもらいたいんだけど、そういう人に限って・・・なんでかなぁ~。
樋口有介先生に殊能将之先生、ほんと人生さよならばっかりだわ(ノД`)・゜・。
『美濃牛』の寄せ鍋に続き、今回は水炊き鍋をルビービールで堪能したくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

ページ数のつかない最初に書かれている言葉。
―――ジェイムズ・ブリッシュに捧げる―――
ジェイムズ・ベンジャミン・ブリッシュはアメリカのSF作家で、ウィリアム・アセリング・ジュニア の名でSF評論家としても活動したらしい。
オリジナル作品では「宇宙都市」シリーズが代表作で、『悪魔の星』が1959年のヒューゴー賞を受賞しているとのこと。
殊能将之はこの作家がお気に入りだったのかな?

―――寒椿黒き仏に手向けばや―――
明治28年正岡子規が作った一句・・・なのかな?
弘仁6年10月15日未明に、巡錫中の弘法大師が四国にある常福寺を訪れた際、流行していた熱病を杖と共に土に封じ込めた。その後、そこから椿の芽が出たという伝説が残っているらしい。
1859年に火災が起こった時も、焼けた株から芽が出て今では立派な椿になっているとか。
殊能将之は何を思ってこの句を引用したんだろうか気になるね。

10Pより。
―――円珍は、円載が国清寺の広修座主から得た解答に不満を持っていた。―――
「広修座主」がなんなのかネットで調べたけどわからなかった。
国清寺の一番偉い人ってことなんかな?

16Pより。
―――半開きのドアから顔を出したのは、腰の曲がりかけた老人で、コールテンのズボンに古びた茶色の上着を着て、まだ左手にヴァイオリンを持っていた。―――
コーデュロイとコールテンは何が違うのか?
日本独自の加工をしているモノがコール天ってことみたいだね。

30Pより。
―――石動の脳裏に、小栗上野介埋蔵金を探して、赤城山をショベルカーで掘り返していたコピーライターの顔が浮かんだ。―――
1990年にTBSのテレビ番組『ギミア・ぶれいく』で、糸井重里を中心とした徳川埋蔵金発掘プロジェクトチームを結成、約2年半にわたって計10回の発掘作業が行われた。
自称霊能力者や大型重機などを使用してガンガン掘りまくったけど、結局見つからずチームもかいさんしたとのこと。
むかし何度もTVでみたことあるなぁ~、平成のテレビ番組って雰囲気だったなぁ~。

49Pより。
―――円載が狷介だったせいか、円珍が生意気だったせいかは、わかりませんけどね。―――
「けんかい」とは自分の意志をまげず、人と和合しないこと。

79Pより。
―――だが、星慧はすぐに察したらしく、呵々大笑しながら、―――
「かかたいしょう」とはからからと大声をあげて笑うこと。

93Pより。
―――「いったいいくらくらいするんだろう。黒瑪瑙の上に金で模様が象嵌してあってね、たぶん純金でしょう。チェーンもゴールドでした」―――
石英の顕微鏡的な結晶が集合して、塊状になっているものを「玉髄」といい、オニキス(黒瑪瑙)は、黒色の玉髄とのこと。
ブラックオニキスまたはオニックスとも呼ばれており、昔から邪念や悪い気を払う魔除けの石として用いられてきたようで。あと感情が乱れやすい人が身につけると気持ちの昂ぶりを抑制し、理性的になれるといわれているみたい。
おじさんも身につけておこうかなぁ。

108Pより。
―――「嘘じゃありませんよ。李賀は世界最初のデカダン象徴派詩人なんです。ヴェルレーヌボードレールより千年以上早く生まれています」―――
デカダン派とは19世紀のヨーロッパ文学、とくにフランス文学の中の文学運動。
デカダンス」という呼び名は敵対する批評家らがつけたものだったけど、後にはそれに属する作家が19世紀後期の象徴主義あるいは耽美主義運動に関係し、初期ロマン主義のナイーヴな自然観の上で巧妙さを楽しんだ多くの世紀末作家に対して、この名を使ったとのこと。
う~む、さっぱりわからん。アニメ『デカダンス』くらいしか浮かんでこない。

181Pより。
―――世間一般では、親不孝通りという通称のほうが、圧倒的に有名だろう。―――
親不孝通りとは、福岡市中央区天神北西部を南北に走る市道の通称である。
治安悪化から名称を「親富孝通り」に変更するも治安回復ならず、月日は流れて治安が良くなるも若者は減少し、昔から愛着のある「親不孝通り」にまた名称を変更したと。
呼び方を変えただけで問題がなくなれば苦労しないわな。

215Pより。
―――「なるほど。赤ビールだから、ルビービールですか」
「ええ。銘柄はベルギーのローデンバッハです」―――
ベルギーの西フランダース地方で造られる伝統のレッド・ビールの代表格で、レッド・ビール独特の軽やかでフルーティーな酸味と深いコクのある味わいってことらしい。
『彼岸の奴隷』に出てきた「アンカー・スチーム」に続き、また一つ飲んでみたビールが追加されてしまった。早く通販で発注しないとって思うんだけど、いつも先延ばしになってしまう今日この頃。

253Pより。
―――「浦上伸介先生に頼みたいよ。おまえ、『週刊広場』編集部の電話番号を知らないか」―――
『事件記者 浦上伸介』は2001年から2008年までテレビ東京BSジャパン共同制作で放送されたテレビドラマシリーズで全6回の番組。主演は高嶋政伸
「週刊広場」編集部と繋がりのあるフリー・ルポライターが、推理ではなく地道な取材で事件を解明していく内容みたいね。

270Pより。
―――いまこの瞬間も、天台座主殿は転法輪筒を前にして、降魔調伏を祈祷していると?」―――
被蓋を持つ筒状の容れ物は、国家存亡の際などに怨敵降伏のために行われる密教修法の折に壇上に安置される仏具で、筒内に相手の姿や名を記した紙を入れておくと、その相手が・・・。
まさしく特級呪物の呪い筒じゃないですかΣ(・□・;)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
171Pより。
―――「さあ、捕まえたっと。もう逃がさないわよ。うふふ」
上鳥瑠美子は名探偵石動戯作の背中に馬乗りになって、色っぽく笑った。
「アントニオ、た、助けてくれ!」―――


全く関係ないことだけど、会社のJapanese Hip-Hop好きな後輩に初心者向けCDを貸してもらった。
年を取ると趣味嗜好がどんどん偏ってきちゃうから、それを少しでも遅らせる為に未知のジャンルにちょっとだけ手を出すようにしているおじさんなのです(^^;)
今回の絵を描いている時にさっそく聞き流してみたけど、思ったよりも受け入れやすかった。
一押しされた「最近の若いやつは」って曲が前評判どおり一番良かったのん。
またいくつかオススメしてもらおうかなぁ。

Blue Moon

Blue Moon

最近の若いやつは

最近の若いやつは

  • J‐REXXX
  • レゲエ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

ただ、それだけでよかったんです 読書感想

タイトル 「ただ、それだけでよかったんです」(文庫版)
著者 松村涼哉
文庫 280ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2016年2月10日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「ただ、それだけでよかったんです」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

数年前に『桐島、部活やめるってよ』をレンタルして観たのよね。
観終わってすぐの感想は、本編全部あの歌のPVみたいだったって思ってた。
でも時が経つにつれて映画の印象が変わってきたのよ。
色んな登場人物たちの一瞬を切り取った場面が、学生時代の独特な空気感を上手く表現してあるから、懐かしくも痛々しいセピア色が蘇ってくるんだわ(´-ω-`)
おじさんの学生時代はこの映画のような日常じゃなかったけど、共感するポイントはちらほらあった。

そんなこんなで、似ているようで似ていない作品だけど今回はコチラの一冊。
ラノベの学園モノってことは、もう擦り尽くされたくらいありきたりな内容じゃないの?
ブコメか、ラッキースケベか、SFかオカルトかファンタジーか?
はてさてどんなラノベ的要素が組み込まれているのか、早くも色眼鏡で判断してしまっている自分に愛の体罰的指導を叩き込みつつ、遥か昔の学生生活時代へ飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

頭脳明晰、スポーツ万能、コミュニケーション能力抜群の稀有な中学生、岸谷昌也。
彼は自宅で首を吊り、14歳の短い人生を終了させた。
残された遺書には「菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない」とだけ書かれていた。
昌也の姉である香苗は、一人の目立たない生徒が複数の人気者達をいじめていたという事件の真相を知るために、単独で調査を開始する。

桁外れな中学生、解剖するんだ、暫定師匠、ソーさん、秘密兵器、モンスター、会ったことがある、地獄ですよね、一世一代の決意だ、革命はさらに進む、欠落お姉ちゃん、拓昌同盟、本当の地獄、悪魔の構造、合格です、第二次革命、何かを隠してる、友だちの重さ、究極の手段、絶叫、ざまーみろ、失敗した、ご苦労だった、僕の望みは・・・。

菅原拓は自身が革命を決意するまでのことを思い出し、一人静かに語り始める。
どうか自分を嘲笑って欲しいと願いながら。
そして真実に近づく岸谷香苗と、現在までを語り終えた菅原拓が出会ったとき、革命はフィナーレに向かって動き出した。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///面白いけどやりたくはない///
自殺事件の調査に動き出した香苗は、まず昌也の通っていた中学校へ出向き藤本校長に「人間力テスト」なる制度の詳細を問う。
人間力テスト」とは、その学校で行われている独自の教育方法だった。
20Pより。
―――評価はさまざまだが、とにかく多くの日本人が注目したのも無理もない。
人間力テストとは——————生徒同士で、他人の性格を点数化するものだから。―――
なぜこんな制度を作ったのか?藤本校長の言葉を聞いてなるほどと思った。
社会人として生き抜く為に作ったのかぁ。たしかに何においてもコミュ力って必要だからね。
思い出すのは『道徳の時間』で語られていた「みんなくん」を使った教育方法。
あれもなかなか面白かった。
ゆとり教育にしろなんにしろ、いろんな方法を模索しているけどなかなか成果は・・・。
日本教育の明日はどっちだ?

///この情景を思い浮かべると、怖いな///
藤本校長に話を聞き終えて帰宅した香苗は、それまでのストレスを爆発させるかのように家の中で騒ぎ暴れる。香苗は在校生だった頃から藤本校長を苦手としていた。
26Pより。
―――「もう、胡散臭いよ!藤本校長の胡散臭さだけで、世界中の香水屋が閉店するよ!」
家に帰ったわたしがまず一番にしたのは、とにかく叫びまわることだった。―――
世界中の香水屋が閉店するって(笑)
てか胡散臭さが強ければ強いほど、香水の需要は高まるんじゃないのか?なんて真面目にツッコミを入れるのは止して。
それにしてもこの岸谷香苗というキャラは個性が強い、強いと言うよりどこか壊れているような気もする。(あ、臭すぎてみんなが香水を買い漁るから閉店しちゃうって意味か)
家で一人喚き散らしながらドタバタ動き回っている時点でヤバイ性格なんだろうけどね(;^ω^)
でもなんか嫌いじゃないのよ、被虐心を誘うというかなんというか・・・ううん、止めておこう。

///なるほどコレにはあっぱれ///
調査を進めて真実に近づく香苗は「秘密兵器」の力を借りて、ついに菅原拓と面会する。
そして今まで謎に包まれていた部分、菅原拓と岸谷昌也の間に一体何が起こったのかを知ることとなる。
210Pより。
―――「そこで、やっと僕が反撃する番になった」―――
なるほどこんなやり方は想像もできなかったわΣ(・□・;)
理屈としてはそーゆー変化が起こることにも納得できるかと。
かなり強靭な精神力が必要になるだろうけど、まさしく「革命」が起きたって訳だね。
まあフィクションの話だから現実に適応できるのかって聞かれるとうーむってなるけど、それでも「あっぱれ」を三つくらいあげちゃいたい。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///鉄壁の情報漏洩防止能力でもあるのか///
菅原拓のクラスメイトである加藤幸太を紹介してもらい、喫茶店で聞き込み調査をする香苗。
岸谷昌也たちへのいじめが発覚して、加害者である拓がどのような制裁を受けたのかを知って動揺する。
65Pより。
―――「菅原は一週間、土下座させられていたんですよ。学校中を回って」―――
作中ではスマホが当たり前に普及している時代。
いくら構内とはいえそんなことさせていたら、すぐに情報リークされて大炎上間違いなしでは?せめて全校集会で一回だけ土下座謝罪ってくらいにしとけば・・・だとしても噂が広まって確実にバレるわな(笑)

///公共サービスの活用を///
自殺事件の調査を進める香苗は、突然何者かに襲撃され暴力を振るわれる。
そして「これ以上事件に関わるな。今すぐ手を引け」と脅迫された。
しかし香苗は恐怖に屈しず調査を辞めようとはしなかった。
146Pより。
―――もちろん、真実を知ることへの恐怖もあったし、襲撃者への怯えもあった。しかし、それでも、諦めることへの踏ん切りがつかないのが理由である。―――
アイスピックを突きつけられて何度も蹴りつけられて、脅迫までされてなぜ警察に被害届出さないの?
大事になればなるほど、関係者たちが口を閉ざしてしまう可能性があるから?
とはいえ犯人を逮捕できれば、そいつから事件の詳細を吐かせることも出来たかもしれないし。
でも真実を知っている人間は殆どいないから、やっぱり無意味なのかなぁ。

///好奇心に満ちた外野の行動力///
自殺事件が報道されて家の周りをマスコミが囲み、日本中から死ねという念を感じている拓は、部屋に閉じこもり震えていた。
誰もいない一人きりの自宅で過ごす彼は、冴えてきた思考に導かれて一つの答えに辿り着く。
そして深夜に行動を開始した。
170Pより。
―――だから僕は誰にも気づかれないように、深夜こっそりと裏口から家を出て、ある場所へと向かうのだった。―――
話題沸騰のいじめ首謀宅はマスコミに貼りつかれて、おそらく動画配信者や野次馬だって群がるはず。
そんな中で夜中にこっそり抜け出ることが出来るのかなと疑問に思った。
もちろんマスコミに囲まれる経験なんてないし、あくまでも想像なんだけどね。
数日経過したらすぐに世間の関心は別なモノへ移っちゃうのかな?


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
ほぼ全編が拓と香苗の一人称視点で、代わる代わる語られていく作り。
過去と現在がコロコロ変わるからちょっと分かりづらいってのもあったね。
と言っても、思い返すと香苗視点は現在の話で、拓視点は事件の少し前から回想していくって感じだからそれほどややこしくもない作りだったわけか。

拓の語りパートでは斜に構えたラノベ男子学生感が強くて、おじさんとしては読んでいて「うーん、台詞がラノベだなぁ」って苦笑いしちゃう場面もあったり(;^ω^)
まあ中年がライトノベル読んでんだから、感性のズレは当たり前だよね。

///話のオチはどうだった?///
事件の真相も拓の目的も全く読めない展開で、いつどこから今風なラノベ展開になるのかと待ち構えていたけどそんなことは一切起こらず、最後まで普通の人間達による切実な物語だったのが予想外だった。

さらに予想外は重なって、学生青春ラノベでここまで心をえぐられるような気分にされたのが驚きよ。
もちろん無理矢理な部分も多々あるけれど、終盤の物語が加速&加熱していく展開にはすっぽり引き込まれちゃった。
あと個人的にメンタル低空飛行な時期に読んだから、最後は少し涙がポロリしそうになっちゃったり。

///まとめとして///
読む前と読み終わってからの印象がガラリと変わる小説だった。
未読の方は如何にもライトノベルな絵柄と、電撃文庫というレーベルに騙されないよう気を付けて。
おじさんは見事に騙されたよ、まさかこんな物語だったなんて想定外だったし。
大賞を受賞するのも納得の一冊だったわ。

集団が出来れば必ず起こるのが順位付けといじめ。(程度の差はあれど)
被害者は拓のように突飛な策で革命を起こすしかないのか!?いやいやそんなんムリじゃい!!
逃げれば良い。より生きやすい場所を探せば良いのよ。
おじさんの親友も言っていた。
「人生なんてただ生きてるだけで充分なんだ」
んでもって同時に思い出す。
「生きる為に戦うこと、それ以外にモラルなど無い」
他人に立ち向かわなくてもいいんだよ、生きること自体が既に戦いなんだから。
そんな自己愛に満ち満ちた満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。
(んむむぅ、『道徳の時間』に引っ張られてる感想になっちゃった感)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

ただ、それだけでよかったんです』は第22回電撃小説大賞受賞作なのです!

TUTAYA限定書き下ろしショートストーリーが挟まっているから少しお得な感じがするよ。
内容は本編から少し時間が経過したある日の小さなお話ですわ。

あと応募用しおりが三枚も付いてきた!
三枚も付いてるなんて気前イイじゃないか、よーしやるぞーってもう期限過ぎまくりだよ(゚Д゚)ノ


51Pより。
―――以上は、岸谷昌也が亡くなる二カ月前、街外れのプラネタリウムでの邂逅。―――
「かいこう」とは思いがけなく会うこと、または、めぐりあいという意味。
過去に調べたことあると思うけど忘れちゃってるね。思い出みたいな意味だと勘違いしてた。

164Pより。
―――不遜を取り繕うのだ、と力一杯の努力をするしかないのだけれど。―――
「ふそん」とはへりくだる気持ちがないこと、または思いあがっていること。
同じく過去に調べたことあると思うけど忘れちゃってるわ。

249Pより。
―――現代社会において人々は評価軸を他人に依拠せざるをえない。―――
「いきょ」とはあるものに基づくこと、またはよりどころとすること。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
もうこれしかないっしょって決めていた180Pの場面。
どんなふうに描こうかな~って思いながら読み終わったとき・・・・・チクショウやられたぜ!
よく分かってるじゃねえか、誰が選んで指示を出したのか知らないが。
つーわけで、第二候補だったコッチにしたよ。
243Pより。
―――「菅原くんか。どうしたんだい?」
当然、初対面ではない。昌也を水筒で殴ったとき、昌也が自殺したとき、そこで二回会っている。直接会話をしたことはあまりないけれど、お互いの顔は知っていた。―――


げげっ!やっちまったぜよ。
拓の服装描写がなかったからパーカーにして描いたけど、制服かブレザーっぽいの着てますやん。
もう描き終わってから気付いてしまった・・・・・まぁ、おじさんのイメージだからご勘弁を(>_<)